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東京地方裁判所 平成6年(特わ)2570号 判決

本籍

東京都北区志茂二丁目四一番地二

住居

同都杉並区阿佐谷北四丁目二四番三号 迦葉マンション五〇一号

会社役員

菊池隆一

昭和二〇年三月四日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官住川洋英、弁護人小見山繁各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から四年間その懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都杉並区阿佐谷北四丁目二四番三号の迦葉マンション五〇一号に居住し、平成二年一二月までの間は同都新宿区歌舞伎町ほかにおいてゲーム喫茶を経営し、平成三年一月以降は自己が経営していたゲーム喫茶の営業権を営業責任者に譲渡した上で、各店舗の経営者からロイヤリティーの名目による収入を得ていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一  有限会社協栄商事が経営者であるかのように装うとともに、所得を明らかにする帳簿を作成せず、かつ、これらにより得た資金で借名定期預金を設定するなどの方法により所得を秘匿した上、平成二年分の実際総所得金額が二億七七二一万一四六九円(別紙一の所得金額総括表及び修正貸借対照表参照)であったにもかかわらず、右所得税の納期限である平成三年三月一五日までに同都杉並区成田東四丁目一五番八号の所轄の杉並税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって不正の行為により、右年分の正規の所得税額一億三四四四万三〇〇〇円(別紙三の(1)ほ脱税額計算書参照)を免れ、

第二  ロイヤリティー収入を借名口座等に入金させるとともに、所得を明らかにする帳簿を作成せず、かつ、これらにより得た資金で借名定期預金を設定するなどの方法により所得を秘匿した上、平成三年分の実際総所得金額が一億六三六九万一三六七円(別紙二の所得金額総括表及び修正貸借対照表)であったにもかかわらず、右所得税の納期限である平成四年三月一六日までに前記杉並税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって不正の行為により、右年分の正規の所得税額七七六九万一〇〇〇円(別紙三の(2)ほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書(五通)

一  勝見時子の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官作成の現金調査書、普通預金調査書、定期預金調査書、前払金調査書、更新料調査書、建物付属設備調査書、車両運搬具調査書、器具備品調査書、保証金調査書、敷金調査書、事業主貸調査書、未払費用調査書、借入金調査書、麻田シツ子勘定調査書、事業主借調査書、元入金調査書、総合短期譲渡所得調査書及び所得控除調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書四通

判示第二の事実について

一  大蔵事務官の定期積金調査書、別段預金調査書、貸付金調査書及び未払金調査書

(法令の適用)

被告人の判示各事実は、いずれも所得税法二三八条一項(判示第一の罪についての罰金刑の寡額については刑法六条、一〇条、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)に該当するところ、情状によりそれぞれ所得税法二三八条二項を適用した上、所定刑中懲役刑及び罰金刑を併科し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪について定めた罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、麻雀ゲーム喫茶店を実質的に経営していた被告人が、その所得を秘匿して二期合計で約二億一〇〇〇万円を脱税した事案である。脱税額は高額である上、二期とも所得を全く申告しておらず、犯行の結果は重大であるとともに、被告人の脱税の意思も強固である。また、犯行の態様は、自己が後記のとおり執行猶予判決を受けていたことから、摘発を免れるため、当初は別の法人が経営主体であるかのように装ったうえ、売上金を借名口座に入金させるなどし、平成三年一月以降は、各店舗を各店長の経営に委ねて自らは表向き経営者としての地位を退く一方、各支店長から受け取るいわゆるロイヤリティー収入を借名口座に入金させるなどし、かつ、いずれの年分も、入出金に関する帳簿を作成しなかった上、売上げメモ等もすぐに破棄するなどしていたのであり、悪質である。本件犯行の動機は、被告人の収入が賭博行為等によるものであったため、その発覚を逃れたいということのほか、被告人の健康上の不安や内妻との将来の生活費を蓄えるためであるが、こうした事情は、到底本件犯行を正当化しうるものではない。しかも、被告人は、昭和五八年にポーカーゲーム機による常習賭博罪により保護観察付き執行猶予の判決を受けながら、その猶予期間中に、これと同種の麻雀ゲーム機を設置したゲーム喫茶の経営を始め、本件当時までこれを継続していたこと、被告人が懲役二犯(いずれも実刑)を含む一般前科五犯を有することを考え合わせると、被告人に対し懲役刑の実刑をもって臨むことも充分考えられるところである。

しかし、被告人は本件犯行を反省し、本件二年分について、本税、重加算税及び延滞税はもとより、消費税も全額納付していること、現在は麻雀喫茶とは絶縁して都内足立区で大衆食堂を営んでいること、その他被告人の健康状態等を考慮すると、被告人に対しては今一度社会内で更生の機会を与えるべく懲役刑について刑の執行を猶予するとともに、主文の罰金刑を併科するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告人・懲役一年六月及び罰金六、〇〇〇万円)

(裁判官 朝山芳史)

別紙1 所得金額総括表

修正貸借対照表

別紙2 所得金額総括表

修正貸借対照表

別紙3 ほ脱税額計算書

(1) 平成2年分

(2) 平成3年分

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